特許庁 実用新案 登録済


Ver.1.0
ーーーー前略ーーーー
【考案の詳細な説明】
【技術分野】
本考案は、本体の穴に柔らかな面材を差し込んだり、穴から面材を引き出したりして、様々な形態たとえば動物、人、花を作って遊ぶ形態創作玩具に関するものである。
【背景技術】
伝承遊びとして、柔らかな面材のハンカチやハンドタオルを折ったり巻いたりして、バナナやネズミを形作ることが広く行われている。また、柔らかな立体材の毛糸の手袋(左右一対)を組み合わせて作る、ウサギや人をモチーフにしたハンドパペット遊びも広く知られている。
【考案の概要】
【考案が解決しようとする課題】
前述のハンカチやハンドタオルは、その柔軟性により自在に変形させて様々な形態を作ることができる。反面、柔軟性があるゆえに作った形態が固定されず崩れやすい。さらに、思いどおりの形態を作るには一定水準以上の手指の巧緻性を必要とするので、幼い子どもにとっては任意の形態を作ることが容易ではない。
また、毛糸の手袋を用いる遊びは、伝承的に形が決まっているハンドパペット作りが主で、遊び手の創意工夫によって新たな形を創り出すことは難しい。
【課題を解決するための手段】
本考案は、互いに独立した柔らかな面材と複数の穴を有する本体とから成る。柔らかな面材を本体の穴に差し込んだり、穴から引き出したりすることにより、面材を変形させて様々な形態を容易に作るとができる。さらに、変形させた面材の形態は、本体の穴によって保持されるので崩れることがない。
【考案の効果】
本考案の玩具は、本体の穴に柔らかな面材を差し込んだり穴から面材を引き出したりするだけで、様々な形態たとえばウサギ、ゾウ、花、人を容易に作ることができる。このように手指の高度な巧緻性を必要としないので、幼児でも大人の手を借りることなく一人で遊ぶことができる。
本考案の玩具は、3タイプの遊び方ができる。A、本体の穴から引き出された面材の形を見て、例えば「あっゾウさんだ」と想像力を働かせる遊び。B、「ウサギさんを作るには、面材をどう使おうかな」と創造力を働かせる遊び。C、穴から面材を引き出す行為そのものを楽しむ遊び。
3〜4歳の子どもは、丸い顔に直に手足をつけた「頭足人(とうそくじん)」を描くことが知られているが、これはこの年齢の子どもが人の顔と手足に関心があり、それが描画として現れるのである。本考案の玩具で遊んだ3歳の子どもが、頭足人に似た形を作る様子が観察された。このような点から、円形の顔形の本体と柔らかな面体で構成されている本考案の玩具は、発達心理学的にも幼児の遊びに適した効果的な形態と言える。
上記の3〜4歳よりさらに幼くて具象的な形態が作れない子どもは、面材を指でつまんで穴から引き出すだけでも十分に楽しく、この行為を何度も繰り返して遊ぶ。これは、心理学者ビューラーの唱える「機能の快」として知られる脳の働きによるもので、幼児が「できた!」と感動することにより脳内に神経伝達物質のドーパミンが分泌され「快感」や「意欲」が湧き、「楽しい!」「もっとやりたい!」という意識が生まれるのである。
本考案の面材に替えて、あるいは面材に加えて、身の回りにあるハンカチ、ハンドタオル、端切れ、ソックス、毛糸の手袋、その他さまざまなモノを本体に組み合わせても遊ぶことができる。これは、フランスの人類学者レヴィ=ストロース言うところのブリコラージュ(寄せ集め創作)的な遊びと言える。遊び手は、身の回りにある様々なものを思い浮かべたり、直に見たりして、本体にこれを組み合わせたら何ができるだろう、あれではどうだろう、というように「拡散思考」を働かせる。算数のように一つしかないの正解を最短距離で導き出す「収斂思考」に比べて、「拡散思考」は既成概念にとらわれずに考えを広げるので、新しい価値を生み出す創造力の源になる。その正解は一つではなく、数人いれば数通りの答えが正しいこともある。このような拡散思考を働かせる遊びは、自分の個性を発揮すると共に、自分以外の多様な個性を尊重する意識を育むことにもなる。
本考案で遊ぶ大人とくに高齢者は、手指を動かすことに加えて、上記ブリコラージュ的な遊びにより見慣れた日常の空間を新鮮な視点で見直すことになり、さらに想像力や創造力、美的感覚や機智を働かせることで、脳の活性化が期待できる。
このように、本考案の玩具は、赤ちゃん、幼児、小中学生、大人から高齢者まで、幅広い年齢の人が楽しく有意義に遊ぶことができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図2】実施例1における形態の変形例。(A)は本体前方からの斜視図、(B)は後方からの斜視図。(C)〜(F)は変形例の正面図。(E)は[0008]で述べた「頭足人」。(F)は花の擬人的な表現。
【考案を実施するための形態】
本体1の形態はとくに限定しないが、円柱や球形であればより好ましい。なぜなら、人が本考案の玩具を動物や人の顔に見立てて遊ぶとき、ベビーシェマ(赤ちゃん様式)の働きにより、円柱や球形の丸い顔を可愛らしいと感じるからである。ベビーシェマとは、動物行動学者コンラート=ローレンツが名付けた概念で、丸い顔、大きな瞳、ふっくらした頬など赤ちゃんの形態的特徴のこと。人はベビーシェマを本能的に可愛らしいと感じるのだという。さらに、円柱は角柱などに比べて手に馴染みやすく持ちやすい。万一、体に強く当たっても角がある立体と比べてより安全である。また、角柱であっても稜線や頂点に丸みをつければ、本考案の好ましい形態となる。
本体1のサイズはとくに限定しないが、本体1の形状を円柱にするときは、厚さを40mmに、直径をその倍の80mmにするとより好ましい。40mmは、一般的な積み木の基本サイズ(モジュール)と同一なので、本体1を積み木と並べた時に高さが揃う。ゆえに、本体1を既存の40mmモジュールの積み木に混ぜて遊ぶことができる。40mmモジュールの積み木が、赤ちゃんから幼児まで、そして大人にとっても持ちやすいサイズであることを、様々なサイズの積み木で遊ぶ様子の観察により確かめた。また、40mmモジュールの積み木よりひと回り大きい45mmモジュールの積み木で組み立てたものは、視覚的にやや大ぶりで間伸びしたように感じられる。一方、40mmモジュールの積み木よりひと回り小さい30mmモジュールの積み木は繊細な造形が可能だが、手指の巧緻性が十分に育っていない2歳以下の幼児には、正確に積み上げることが難しく崩れやすい。
さらに、本体1は円柱の内側に空間3を有する円筒形であることが望ましい。この空間3により、面材2を本体1の穴4から外側に引き出して形態を作る際、余分な面材2を円筒内側の空間3に収めて、外観をすっきりと美しく見せることができる。また、円柱にかえて球体の内側に空間を設けても良い。あるいは、角柱の内側に空間を設けた角筒形を採用することもできる。
加えて、円柱の側面5には等間隔で6個の穴4を左右対称に、正面6の中央には1個の鼻穴7を備えることが望ましい。上部の左右2個の穴4からそれぞれ面材を引き出せば動物の耳に〔図2(D)〕、中段の左右2個の穴4から面材2を引き出せば人や動物の耳に〔図2(A)(C)〕、正面6の鼻穴7から面材2を引き出せば、その長さを加減することでゾウの長い鼻〔図2(C)〕や人の鼻〔図2(A)〕になり、さまざまな顔を作ることができる。また、下部の2個の穴4から面材2を引き出せば人の足に、中段の左右の穴4から引き出せば手になり、頭足人([0008])を作ることができる。さらに、6個の穴4すべてから面材2を引き出せば花びらになる〔図2(F)〕。このように、本考案の玩具は、遊ぶ人の想像力と創造力で様々な形態を作ることができる。
本体1の正面6には、目8や口9の像を備えることが望ましい。面材2を本体1の穴4に通して動物や人の耳に見立てたてて遊ぶときに、目8や口9の像が、その想像を助けるように作用する。また、動物や人以外のモチーフ、例えば6個の穴4全てから面材を引き出して花の形態を作るとき、目8や口9の像は花の擬人化表現として機能する。
本体1の側面5の下部には、平面部10を備えていることが好ましい。この平面部10を下にしてテーブル等に置けば、面材2と組み合わせて作った動物の顔などの形態を、眺めて楽しむことができる。
面材2の形状はとくに限定しないが、円形であればより好ましい。円形は正方形などに比べて方向性が無く、中心から外周部への長さが均等なため、本体1の穴4に差し込んで何らかの形を作った時に、面材2の外周部の形が視覚的に繁雑にならず、自ずと形態としての一体感を持つ美しいフォルムになる。
面材2のサイズはとくに限定しないが、面材2を円形とした時、その直径を本体1正面6の直径の4倍の長さにすることが好ましい。これより大きくすると、面材2を本体1に挿入して任意の形態を作った時、面材2が余ってはみ出してしまう。また、正面6の直径の4倍より小さいと任意の形態を作ることが難しい。 ーーー後略ーーー